人々の暮らし合いから生み出される技(アート)のひろがり実感ーはじまりの美術館(猪苗代町)「わくわくなおもわく」展トーク 2019.9.28

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9月28日(土)、福島県猪苗代町のはじまりの美術館で開かれている「わくわくなおもわく」展会場で、そこに展示されている橋本克己画伯の作品をめぐり、「地域と障害―しがらみを編みなおす分解者たち」と題するトークに参加してきた。岡部兼芳館長が進行役で、私とわらじの会の障害者たち、そして近著「分解者たち」(生活書院)で見沼田んぼ福祉農園とわらじの会をとりあげた猪瀬浩平さんが語り合った。
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 ほんとうは画伯自身が参加の予定だったが、画伯が嫌いな団体旅行とかんちがいしてちゃぶ台返しをして拒否し、不参加となった。そのいきさつを述べるところから始めた。

画伯の作品は、聾、弱視、下半身まひの彼が「就学免除」にされ、自宅の奥に一室で大人になってから初めて街に出始めた時の周りとのトラブルがその源泉である。家の中ではすべてを破壊し尽くす大パニックをくりかえしていた画伯だが、街でのトラブルは不思議な世界の冒険と受け止められ、その都度私たちを調整役としてひっぱり出し、難関を乗り越えるために絵を描いて訴えてきた。たとえば、手動チェーン式車いすでお寺に行ったら、お地蔵さんがみな風車を持っていてくるくる回っていたので、その風車を一つもらって車いすのハンドルにさしていたら、お寺の人に止められたので、一緒に行って謝ってほしいとか。
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その絵が面白いので、聴き取った説明を付けて月刊わらじに載せたところ、みんなの面白がる様子を見た画伯は、その月のいちばん面白そうな出来事を描いてくるようになり、困りごとだけでなく、たとえば家に独りでいたら鳩が入ってきてその鳩を抱いたなどという出来事なども描かれた。
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猪瀬さんは、障害のある兄が近所の定時制高校を受けて不合格にされ、わらじの会の障害者などたくさんの人が知事応接室に3泊4日したとき、なぜかそこから小学校に毎日通ったという原体験を語った。大学で文化人類学を学んだ後、障害学をと考えたが、障害者とか障害者運動ということでは、自分が生きてきたさまざまな他者たちが織りなす地域のありようは語れないと実感したという。
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まだ手動チェーン式車いすで一人で街へ出ていた頃の画伯は、毎日電車やバスであちこちに出かけていたが、当時の駅は昇降設備が一切なく、駅員も手を出さず、周りの乗客に声をかけてかついでもらって電車に乗り降りしていた。当時、重い電動車いすで県内でも初めて電車を利用した野島さんが、客席から体験を語った。6人の乗客に手伝ってもらい、まちがって途中の駅で降りたら、駅から警察に通報され、交番で事情聴取を受けたという。電車に乗っただけなのに、なぜ事情聴取?と野島さん。
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わらじの会代表の藤崎さんは、障害者たちが介助者募集も兼ねて街に出始めたころ、電動車いすを足で操作して出かけていたが、手を使えないので公園で橋本画伯に弁当を食べさせてもらっていたところ、くしゃみをして食べ物を画伯に噴射してしまい、パニックになった画伯が手動チェーン式車いすで体当たりを繰り返した。通りがかりの主婦が山下に通報してきた一件を、当時の状況説明として述べた。
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岡部館長は前職が入所施設の職員で、まず制度ありきの今と、何もない中、地域で試行錯誤しながら支援のありかたを探っていた当時との対比に言及した。そして、「しがらみとしての地域」について振ってこられたので、樋上さんにパスを回す。「学校が嫌いだ、しかし学校が好きだ」という持論を語ってくれと。でも樋上さんは、それについてでなく、中学を出て通信制高校に入り、初めてわらじの会に来た時、画伯の手動チェーン式車いすの後ろに付けたリヤカーに乗って、二人であちこち電柱を巡り捨て看板を取りに行かされた経験を語った。
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岡部さんや館員の小林さんは、「わくわくなおもわく」展の諸作品の共通性について、誰かと誰かが関わりあって成立した作品だと言っていた。さらに、はじまりの美術館自体、「人の表現が持つ力」や「人のつながりから生まれる豊かさ」を大切に考え、「誰もが集える場所」としてはじまりの美術館を開設したとされる(facebookトップページ)。
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なるほど、画伯の絵日記もそうだが、NPO法人スウィングのXLさんらの「京都人力交通案内『アナタの行き先、教えます』」にしても、折元立身さんが認知症の母親らと制作する「ART-MAMA+SON」にしても、鎌江一美さんが施設長への片思いのエネルギーで生み出し続け国際的評価を得ているという「まさとさん」も、みな人と人のせめぎあいの所産といえる。特にスウィングが「人力」と表現しているのは、画伯が「人間エレベーター」と呼ばれたことと通底している感がある。
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今回、「知られざる橋本宅手話会」(オリジナル手話)や「画伯最新技」(自宅の昇降機への移乗法)といった動画や「未確認迷惑移動物体」等の写真を見てもらった。「画伯最新技」では「頭がいいんだね」と称賛する母ミツエさんの声も入っていて、会場が沸いた。
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支援制度や福祉教育、バリアフリー環境の整備・普及は、その時代の暮らしのナショナルミニマム形成に必要だが、それらが逆に人々の暮らし方を規制し、人々の暮らし合いから生み出される技を見えなくさせたり、時代遅れだとして切り捨ててきた側面もある。
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 前記の「人力」や「人間」を冠した技(アート)の意味をあらためて考えた。トークの中で、故鶴見俊輔の「限界芸術」論についてふれたが、「ひろがりの美術館」のひろがりを実感したひとときだった。岡部さんの好奇心は並みサイズではなく、「職場参加」とは何かについての質問もいただき、卵と餌料の会社社長だった故鈴木操さんとの出会いや画伯の絵日記販売、仕事発見ミッションや水上公園花壇整備作業を語り、画伯が前日に行った花壇での作業の動画も披露させていただいた。
 終了後、「ちゃぶ台返しの画像を見せてほしい」と参加者の一人に言われたことも含めて、貴重な対論と再考の機会を与えていただいたことに感謝。

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